ぶどうの由来のバイオレザー「べジュア」って知ってる?」
今も昔も世界中で愛されるアルコール飲料ワインですが、ワイン製造過程で出る“廃棄物”から作られる、サステナブルなヴィーガンレザー「ベジュア™️(VEGEA™️)」をご存知でしょうか?100%再生可能なリアルレザーの代替え品ベジュア™️は、高級車ブランドのベントレーやファッションブランドH&Mも注目する新素材です。
今回は、ワインの生産地として世界で1位を誇るイタリアのスタートアップ企業が開発する、ヴィーガンレザー「ベジュア™️」の魅力をお伝えします。
ベジェアとは?
ベジュア™️とは、ワイン製造時に排出される“ぶどうの搾りかす”から作られた、革新的なバイオレザーです。
2016年にイタリア・ミラノで設立されたスタートアップ企業「ベジュア社」により開発されました。ワインレザーやグレープレザーとも言われるベジュア™️は、ぶどうの搾りかすと植物油、繊維を配合して作られており、天然由来の100%再生可能なサステナブル素材です。
ちなみに、企業名及び製品名のベジュア(VEGEA)は、VEGANのVEGと原始的な女神・母なる地球のGEA(ガイア)を合わせて名づけられたそうです。
動物由来・石油由来の材料に代わる完全なレザーの代替品として、ベジュア™️の開発と提供を行うベジュア社は、2020年にHorizon 2020*¹を受賞し、ミレニアム時代における最高のイノベーションを提供するヨーロッパ新興企業の1つとして欧州連合より認められました。
*¹欧州連合最大のイノベーションユニオンを実装する金融商品。
ベジェアができるまで
では、欧州連合も認める最先端のヴィーガンレザー「ベジュア™️」は、いったいどのようにして誕生したのでしょうか?
ベジュア社の創設者で建築家、インテリアデザイナーであるジャンピエロ・テッシトーレは、家具用のサステナブルな素材を探していた際、石油原料を使用した人工皮革や動物性のリアルレザー以外の素材がないことに気付き、それらに代わるサステナブルな素材が必要だと感じたことが、ベジュア™️の開発のきっかけとなりました。
テッシトーレはフィレンツェ大学や他の研究センターと協力し、さまざまな植物繊維の研究を開始。
3年間多くの実験と研究を重ねた結果、ベジュア社の共同経営者であるフィレンツェ大学の環境科学者フランチェスコ・メルリーノは、ワイン製造時に残留物として排出されるぶどうの搾りかすに含まれる、セルロース繊維や油分などの成分に着目しました。試験的にぶどうの搾りかすに植物オイルを加えたところ、ポリマーを作りだすことに成功。なおかつ、ぶどうに含まれる繊維質などが、動物性レザーに近い質感を表現するのに理想的だという発見をしたことから、ベジュア™️の開発が始まったのです。
ぶどうの搾りかすからレザーになるまでの制作工程
VEGEA from vegea vegea on Vimeo.
リンゴ果樹園の廃棄物を利用するアップルレザーのように、ベジュア™️はワイン工場で出された、皮や茎を含むぶどうの搾りかすを原料として作られます。
ベジュア社と連携しているイタリアのワイン工場からぶどうの搾りかすを仕入れ、ベジュア™️の製造工場で搾りかすを乾燥させます。乾燥させた搾りかすを粉砕し、不純物を取り除いた後、ヘンプやセイヨウアブラナの種子から抽出されたバイオオイルを加えて液状にします。ベース繊維となるオーガニックコットンやリサイクルコットン、リサイクルポリエステルにその液体をコーティングし、レザー状に形成すると、「ベジュア™️」ができあがります。
ベジェアの特徴
植物由来の天然成分から作られるベジュア™️ですが、その仕上がりはプラントベースだということを感じさせない、ラグジュアリーなビジュアルと、リアルレザーに近い質感です。
様々な厚みに加工することができ、また、強度・硬度・圧力・柔軟性などの耐久性を図るテストを繰り返し行い、ヨーロッパ連合が定める最も厳しい欧州規制REACH*²の基準をクリアした、優れた耐久性を持ち合わせています。
*² 欧州連合が定める化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則
これらの特徴から、ベジュア™️はファッションのみならず、家具や包装など幅広い用途で使用することができるのです。
ベジェアと環境問題
全世界で愛されるワインは、毎年世界中で約270億リットルが生産されています。それに伴い、ワインの製造時に出されるぶどうの茎や皮、種子などの搾りかすは、なんと毎年約70億トンにも上るのです。大量のワインの副産物は、一部は有機肥料や家畜飼料として再利用されますが、ほとんどは産業廃棄物として処分されます。
この産業廃棄物を焼却処分する場合は、処理燃料として石油を大量に使用することから、CO2が排出され環境負荷を増大させます。しかし、ベジュア™️の製造では、10リットルのワインから排出される搾りかす約2.5kgで1平方メートル、年間ともなると毎年26億平方メートルのベジュア™️を作ることができ、産業廃棄物やCO2の削減に繋げることができます。
また、古くなったベジュア™️製品はリサイクルして新たなベジュア™️製品として生まれ変わらせることもコンセプト上では可能であり、今後は古くなったベジュア™️製品を販売元やリサイクル業者に返却したら、消費者にはクーポン券などを配布し、積極的にベジュア™️の循環消費を行うことも考えているそうです。
ベジュア™️の生産と消費が増えることで、将来的にベジュア™️をより安価な価格で提供することができるようになれば、企業や消費者はよりサステナブルなオプションを選択しやすくなり、結果として石油由来や動物由来のレザーの使用・消費の削減につながることが期待できます。
また、動物性レザーのなめし工程時で大きな問題となっている、環境負荷の大きいクロムなどの有害化学物質や重金属はもちろん不使用です。さらに、従来の動物性レザーの製造には多量の水を使用し、レザー生産地域の水不足や水質汚染が深刻な問題となっていますが、ベジュア™️の製造には水はほとんど使用しないため、水資源の利用を削減することができます。
ベジェアの商品開発
産業廃棄物問題や環境汚染、資源不足などのソリューションとして希望の光を与えてくれるベジュア™️ですが、設立当初は資金不足のため量産化への課題がありました。しかし、2017年にGlobal Change Award*³を受賞し、助成金30万ユーロを獲得したことによって、量産化の準備を整えることが可能となりました。
*³ 非営利のH&M財団が2015年に開始したGlobal ChangeAward。ファッション業界全体に「サーキュラーファッションを実現するためのイノベーションをサポートすることを目的として活動しています。
量産化への準備が整ったベジュア™️は、ドレスや鞄、靴の製品化への取り組みを開始。
2019年7月には、イタリア・ミラノで開催された素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」に、化学合成油由来の素材に代わるバイオベースのヴィーガンレザーとして初出展しました。興味を持った600社以上のメーカーがベジュア™️のブースを訪れ、その内50社以上がイベント開催期間中に少量を買い付けるほどの注目を集めました。
また、ほぼ同時期の2019年7月に、ベジュア™️は高級車ベントレーとのコラボレーションを発表。翌年にはH&Mとの共同開発も発表し、年々注目度を増しています。
ベントレー100周年記念車 EXP 100 GT
2019年に100周年を迎えたイギリスの高級車ブランド ベントレーは、100周年を記念するEXP 100 GTモデルの車内インテリアにベジュア™️を採用しました。
リアルレザーに劣らない高級感溢れる質感と見た目で、ベントレーの記念車内を美しく彩るベジュア™️。ぶどうはシャンパンやワインなどの原料であり、ベントレーのラグジュアリーなイメージと相性が良いこともベジュア™️が起用された理由のようです。
まとめ
見た目も耐久性もリアルレザーに劣らないベジュア™️。技術の発達が進み、高品質なバイオ・ヴィーガンレザーが誕生する現在、レザーのために動物を犠牲にしたり、石油原料を使用することは、時代遅れになりつつあります。今後、よりSDGsへの取り組みが重要視される中、ベジュア™️は各業界から重宝される素材になることでしょう。
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